金星の最大光度に戸惑っていませんか?
2022-02-08


ともあれ観測日時を決めると太陽(光源)・地球(観測者)・対象惑星の位置関係は決まりますから、明るさを時刻の関数としてひとつの計算式に押し込める試みは古くから研究されていました。観測値になるべくフィットするような式がいくつも考案されています。

前出で国立天文台が「惑星の明るさの計算方法」を変えたというのは、いままでの計算式が古すぎたので、最新のものにするよということです。ここ20年ほどで新しい知見が得られ、特に太陽に近すぎて観測できなかった「合」前後の惑星光度が太陽観測衛星SOHOによって明らかにされた功績は大きいでしょう。右図は新旧の計算での等級を比較したグラフ。暦計算室にも同じものが載ってます。最大等級が変わったことももちろんですが、内合近くで複雑な変化をしていることが興味深いですね。また全体が明るくシフトしたわけではなく、外合前後は逆に暗くなってしまいました。


★明るさも様々
さて、ここからが本題。最初の問いのように異なる答えが出てしまう謎です。計算光度が違うのは使っている計算式のバージョン違い、というのは容易に推察できますが、問題は日付のほう。ずれが大きすぎます。また、一番明るいときを「最大光度」と言ったり「最大光輝」や「最大等級」など別の表現が使われることもあります。日時や等級数値の違いと何か関係があるのでしょうか?ヒントは英語版のwiki「Aspects of Venus」(※占星術の項目です)の下のほうにひっそり書いてあります。いくつか海外の論文を読み、実際に自分でプログラミングして初めて理由にたどり着きました。

種を明かすと、金星の最大光輝とは本来「照らされている面積が極大」になることです。無論、面積が極大になったからと言って明るさが最大になるとは限りませんが、満月がそうであるように「面積極大は明るさ極大とほぼ同等だろう」と見なして簡略化する計算方式ですね。つまり、等級ピークそのものの計算と、面積による見なし計算とが混在してる、ということが情報に差が生まれる最大の理由でしょう。さらに、明るさ計算式の新旧交代劇も加わって混沌としています。

最大光度という言葉を素直に解釈すると「明るさの計算式が極大を示す日時と光度」を求めることになるでしょう。英語で言えば「Maximum Brightness」になります。ところが旧来行われてきた最大光輝とは英語で「Greatest Illuminated Extent=Greatest Brilliancy」です(→使用例:英語版NAOJニュース・2017年2月)。直訳すれば「光っている範囲が最大」ということだから、つまり輝面積が極大になる日時と光度を求めることになります。BrightnessとBrilliancyという表現の違いを「光度」とか「明るさ」に一本化してはいけません。両者の極大は近い日付になるけれど、それぞれ異なる量なのですから、本質的に一致しないのは当たり前。言うなれば月の位相を表現する「月齢」と「月太陽黄経差」の関係に近いでしょうか(前者は日数、後者は角度)。当たらずとも遠からず、といったところです。

禺画像] 暦wikiによればBrilliancyを求める計算を「光度の式」、Brightnessを求める計算は「等級の式」として区別している説明も見受けられますが、解説文全てで一貫してしているようには読み取れませんでした。当然、国内の天文情報源全てで統一されてるはずもないでしょう。専門家ではない私のような一般の人が明るさを言い表すとき「光度」「等級」「輝度」「明度」「照度」といった違いを意識せずゴチャ混ぜに使うきらいがあることも問題かも知れませんね。

最大光輝と最大等級がどんな関係か示すのにこの論文

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