スーパームーンを考えよう
2016-11-14


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本日11月14日の夜は満月。そしてこの満月は「スーパームーン」だと、あちこちで話題になっています。スーパームーンという単語の意味がはっきりしないため、乱用されることが多くて気になっていました。整理しつつ、もう一度考えてみましょう。


★スーパーな月とはなんぞや?

スーパームーンとは学術用語や専門用語ではありません。「どんな月がスーパーなのか」は曖昧で、「非常に細い月」とか「異様に赤い月」とか「格段に美しい月」とか、何でもスーパーになり得ます。でも、この言葉は最初から「滅多に見ることができないほど見かけの直径が大きな満月」という意味で使う暗黙のルールがあります。

天文学では円形の大きさを持つ天体に対して、見かけの直径を長さではなく角度で示す「視直径」を用います。天体は遠いので、定規で直接測れないことがあるからです。実感していただけるよう、いくつかの例を下表に記しました。

状況 対象の実際の
大きさ
視直径
(度表記)
卓球のボールを1m離れて見る 4cm 2.3°
バレーボールを12m離れて見る 21cm 1.0°
マウンドの投手が持つ野球ボールをホームベースの捕手が見る 7.4cm 0.23°
バッターボックスの打者が打った瞬間の野球ボールを100m離れた外野手が見る 7.4cm 0.042°
約38万4400km離れている月を地球から見る 3474km 0.52°

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富士山を近くで見るのと遠くから見るのとでは大きさが違いますね。このときの「大きさ」は実寸のことではなく「見かけ」という意味。対象が変化しなくても観察者と対象の距離が変われば視直径は変わります。スーパームーンという現象は「月と地球の距離が変わる」から起こるのです。

月軌道は地球との距離が一定の円軌道ではなく、楕円軌道。だから1ヶ月弱で1周公転するたびに最も近い点(近地点)と最も遠い点(遠地点)を通ります。この周期は月の満ち欠けと関係ないため、同じ満月なのに近いときもあれば、遠いときもあるわけですね。また月軌道はやや不安定で近地点の距離は常に変動しています。右上図は国立天文台サイトからの引用(一部書き込みあり/リンク)ですが、月は満ち欠けだけでなく様々な大きさになることが一目瞭然。小刻みに上下する視直径グラフ(白線)の極大と極小のみを見ると(緑線)、これまた緩やかに波打っています。長期に渡って極大を追いかけたとき「極大の中の最大級」近くでたまたま満月となるケースがスーパームーンということになるでしょう。


★観察者の数だけ満月が存在する!?

満月の日時を計算し、そのときの月と地球の距離を導けば「スーパームーンのリスト」なるものが作れそうな気がします。でも私はそうしたリストを見たことがありません。これだけスーパースーパーと騒がれる割に、なぜ比較リストがないのか……学術的関心が乏しいという理由以外に、実は計算が一筋縄ではいかない背景があるようです。

満月といっても、決め方のルールがいくつかあります。私たちが目にする満月の予報日時は多くの場合「黄道座標系で月と太陽との経度の差(黄経差)が180°に達した瞬間」という公式ルールに従います。黄道座標系とは地球中心が原点の地球公転面を基準にした天球の測り方。これに対して、地球の自転軸や赤道面を基準にした赤道座標系での「月と太陽との経度の差(赤経差)が180°に達した瞬間」という決め方もあります。どの座標系を使うかはかなり根深い問題なのです(→金星での座標系関連記事)。

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