ここ数日、「月面にある三重のリング状地形」に関する記事がニュースで流れました。関心のある方はお読みになったでしょう。この地形は地球から見て「見えない側」に中心があり、一般には「東の海」(Mare Orientale)を囲む「オリエンタレ盆地」(Orientale basin)として知られます。
禺画像] 盆地の最外周直径は約580マイル(930km)。東京駅が盆地の縁なら、対面の縁は鹿児島の桜島近くに相当する大きさですね。左図は
アメリカ地質調査所(USGS)からの引用で、オリエンタレ盆地周辺の段彩地形図。私には四重構造にも見えますが、とにかく多重の外輪山のような地形が分かりますね。
NASAが打ち上げた二機の月周回探査機「GRAIL」(2012年末に運用終了)の観測データを元に、いかにこの盆地ができたかと言う研究の発表が今回のニュースだったわけです。直径約40マイル(64km)の岩石がぶつかったらしいことや、巨大盆地が短時間でできたとか興味深い内容ですので、ご興味ある方はニュースでなく論文をご覧になってください。概要は
NASAの記事もありますし、
MIT-newsには「最初の160分」のシミュレーション動画もあります。
さて当ブログとしては難しいことはさておき、「この魅力あふれる月地形を見たい」と思うわけです。上図の上辺に経度の数値が書いてありますが、これは地球から見た月中心を基準に、西回り(北を上にしたとき、向かって左)に測った「西経」の値。東の海は西経90°から100°あたりにあることが分かりますが、西経90°というのは地球から見て月の左縁付近なので、当記事最初に書いたように、普通に考えたら東の海は全く見えません。せいぜい盆地の外周が少しだけ見える程度でしょう。
でも月の裏側がわずかに地球側へ振り向くチャンスがあります。月は地球に対して南北や東西に少しだけ首を振っている(ように見える)秤動という動きがあり、実際の可視範囲は東西南北とも90°を5°以上越えてるのです。(もちろんそのとき反対側は可視範囲が減ります。)つまり時期さえ選べば盆地の半分くらい確認できるのです。
記事右側の画像は
2016年3月4日撮影の月の左側部分。ここにちゃんと東の海周辺が写っています。正しく確認するため、NASAの
ルナ・リコネサンス・オービター(LRO)および
ルナ・オービターが撮影した有名なオリエンタレ盆地画像を引用させていただき、右の月画像の一部を並べて主な地形にマーカーを載せてみました(下画像/ちょっと大きい画像なのでご注意)。
書いてあるクレーターのうち、クリューガー(Cruger)は直径約45km、アイクシュタート(Eichstadt)は約50kmとのことなので、オリエンタレ盆地を作った衝突隕石はこれより大きいことになります。太陽系創世のスケール、すごすぎる…。