禺画像] 南極大陸は殆ど氷で覆われています。その下に眠っているであろう広大な大地を、いままで誰も見たことがありません。ところが技術の進歩はめざましいもので、現代科学の様々な手法を組み合わせ、数千メートルに及ぶ氷床越しに高精細な地形図を作り出すことに成功したとニュースで知りました。
米カリフォルニア大学の研究チームが作った“現時点で最も正確な”南極地形データが早くもNSIDC(アメリカ雪氷データセンター/National Snow and Ice Data Center)から公開されていたので、昨日さっそく取り寄せて氷の下を暴いてみました(左図)。これは萌える!!(笑)ずっと知りたかったことがやっと頭に入ってきた喜びは何ものにも代え難いですね。部分的に粗いところやスキャンノイズが見受けられるものの、今までの図に比べたら桁違いの精細さです。
左図で、薄ピンクの縁取り線がいわゆる「南極大陸」の境界。南極圏には海が凍ったところ(海氷)や、陸上の氷がゆっくり海へ迫り出し、そのままつながっているところ(棚氷)等があります。純粋な意味での南極大陸とは「陸地とその直上を覆う氷のみ」を差しますから、写真などで白く見える全部が南極大陸ではありません。(※図の水色部分の海面はほぼ凍ってます。右下画像参照。)なお、南極の氷が全部溶けたら全世界の海抜が60m上がるそうです。この図では黄色から水色・青系にかけて元々海抜ゼロm以下ですが、黄色と濃緑の境界も少し沈むことになるでしょう。
今回のニュースでもうひとつの目玉は「地球上で最も低い“陸地”が見つかった」こと。ここで言う陸地とは「海や湖水などに覆われていない場所」の意味で、海底地形などは含まれません。南極地形は氷付けであっても海には曝されてないため「陸」扱いなのです。これまでは標高マイナス430mの死海周囲が最も低いとされていました。今回見つかったのはなんとマイナス3500mの土地。場所は図に示してありますが、デンマン氷河地区(Denman Glacier)の氷床下に位置する場所です。E67°、S73°付近にもマイナス3000m級の窪地がありました。氷が無ければ一瞬で海底に没しますけどね…。ちなみに高いところは南極点の左側や下側に描かれている薄茶色のところ(南極横断山脈/Transantarctic Mountainsなど)です。(※南極最高峰は4892mのヴィンソン・マシフ山[ Vinson Massif、W85.617°・S78.526°]ですが、NSIDCのデータセット上では精度あるいはジオイドの都合なのか最高地点データが4818.16mになっていました。)
あらためて左上図を見てみましょう。もともと大きなひと続きの陸だったところに亀裂が入り、多数の島に分裂している途上に見えませんか?水色や黄色を大陸棚として見た場合、ちょうど日本列島の様な分裂の歴史が感じ取れるのです。それがどんな経緯だったのか興味は尽きません。数千メートル規模の氷により海上の大陸として成り立つ南極。地球の歴史を紐解くカギが氷に守られながら眠っています。研究を阻むのもまた分厚い氷というのが何とも皮肉ですね。 将来に気温上昇で氷が溶けたら、地球の地形や地勢は大きく変わります。中緯度・低緯度にあまり人が住めなくなり、南極移住が進むかも知れませんが、同時に地球解明も大きな進歩を遂げるに違いありません。そのとき再びこの地図がより精密に描き換わることでしょう。