禺画像] パーソナルユースのコンピューターで地図を扱えるようになって何年経ったでしょうか。かつて天体観測の度に五万分の一紙地図を何枚も持ち歩いた時代は遠い過去。GIS(地理情報システム)は今やスマホでも扱えるようになり、持て余すほどの地理情報から必要なものを取り出すなど造作もないですね。例えば人力で「首都圏道路渋滞情報」を集める手間を想像するだけでも、コンピューター様々と感じるでしょう。
ところで、GISのなかで「風景」や「景観」に関わる情報は標高データや建築形状くらいしかありませんが、それでも3D地図をグリグリ見ているだけで楽しくなります。地球の地図もいいけれど、他天体の地図も興味深いもの。NASAやJAXAなどの探査機から得られた天体の表面データはデジタルアーカイブとして広く公開され、個人レベルで十分活用できます。生きている間に行くことができない天体だけれど、ちょっとしたバーチャル旅行を味わえます。
左上図は
国立天文台RISE月惑星探査検討室サイトから公開されている「月探査機かぐや」の標高データを使い、地球の地図描画ソフトで作図した月面全体図です(※作図の詳細は記事末に表記)。地球から見える側を中心にしてあり、地上の望遠鏡で確認可能ないくつかの「海」の名称を書いておきました。私を含め多くの人が見慣れた月面ってモノトーンの希薄な世界ですが、こうして標高(&好み)に応じて彩色した図(段彩図と言います)では、印象ががらりと変わるでしょう。SFやゲームの世界でテラフォーミングされたような月面ですね。ふっかつのじゅもんを入力すればダンジョンや宝物が出てきそうだ!こうした地図描画はプロ仕様のお高いGISアプリもあるけれど、優秀なのにフリーソフトのものもあります。開発者の方には頭が下がりますね。
自在に作り上げて行く月の地図は見て楽しいだけでなく、月面アトラスとしての視認性や理解も格段に進みます。前出の地図右上に凡例がありますが、薄黄緑色辺りが月面半径基準の標高0m。緑や茶色は標高が高く、水色や青、紫色は低い部分。直接の標高値だけでなく、高低差やその偏り具合なども着色の偏りから分かりますね。仮想シミュレーションだってOK。例えば『もしも標高0m以下を海水で満たせば「海」と呼ばれる地形は本当に海面下に沈むのでは?』 …こんな段彩パレットを設定すれば、右図(青系色は全てマイナス標高)のように本当にそうなることが分かります。実際にこんな月だったら、地球からは海しか見えず退屈でしょうけどね。
禺画像] 左図は地球からほぼ見えない付近を描いたもの。いちばん右寄りの黄点線円が「東の海(オリエンタレ盆地)」を取り囲む多重リングです。多重リングは小さなクレーターに覆われて分かり辛いものですが、強めの段彩を施せばオリエンタレ盆地だけでなくあちこちに見つけられるでしょう(他の黄点線円)。青い領域にあるApolloやPoincare、Schrodingerだって仲間かも知れませんね。いくつかの外輪山・内輪山で構成されたクレーターや盆地の多重構造は、複数の衝突でできる「たまたま重なった多重クレーター」と様子や規模が異なることが見て取れます。参考までに、この標高データを総スキャンして得られた最高標高点と最低標高点も記しておきました。それぞれがこんな近くなのは偶然?それとも必然?「落とし穴と掘削土の山」の関係になってませんか?